逢うも逢わぬも

    眠気のなかで

2023.01.01 正月とヤクザ映画

 横浜に戻ってきてしまった。そういう予定だったのだから、文句をいう筋合いはないのだけれど、それにしても、チューニングがうまく行かない。横浜、寒いし。

 関西のことについては、沢山書かなければならないことが残っているのだけれど、周波数を合わせるためには、今は、今のことを書いたほうがいい。正月のことを書かなければならない。そうであるのだが、私にとって、正月はよく分からないものの1つであり、思いつくことがない。

 今、思いつくことといえば、すじこ茶漬けを食べることくらいなのだが、すじこ茶漬けのことを書いても仕方がない。と書いたところで、ヤクザ映画のことを思い出した。

 少し前までは、私は、正月にやくざ映画を見ることにしていた。若い頃、正月の深夜に『極道の妻たち』シリーズが放映されることが多く、見るものがなくて仕方がなく、それを見ていたという刷り込みの故なのか、年が明け、妻と娘が寝静まると、やくざ映画を見たくなり、それを繰り返していた。

 60年代前半の任侠映画といえば、鶴田浩二ということになっている。私はそれほど詳しくないが、『飛車角』シリーズは、大ヒットしたとのことで、ある意味、ヤクザ映画の系譜を紐解こうとすれば、そこを抜かすわけにはいかないのだろうけれど、鶴田浩二には、信用ならないところがあり、そこは飛ばし、『昭和残侠伝』あたりから見始めて、実録ものを通過して、北野武のヤクザ映画までに至るというところで終わった。

 順を追っていくと、まず、60年代に興隆を迎えた任侠映画は、綺麗事の様式美に貫かれている。例えば、『昭和残侠伝』シリーズでいえば、高倉健池部良に恩義を感じていたところ、池部良が困ったり殺されたりして、恩義を果たすために、高倉健が仇に殴り込みにいく、という物語がずっと繰り返される。このようなワンパターンの評価は大きく分かれるとは思うけれど、同じことを同じように繰り返す中で、細部の違いが際立ったり、定形からの逸脱としてのオリジナリティが生み出されたり、というところもあり、私は、退屈しつつも、見ないでもいられないような感じであった。

 そういえば、『男はつらいよ』シリーズのことを思い出してみれば、これは、松竹が任侠ものの流行を受け、これと松竹が得意としていたホームドラマを結びつけ(寅次郎はテキヤというのは、任侠映画からの影響)、ヒットを狙ったというのがそもそものところで、これだって、寅次郎が何処から帰ってきて、失恋して、何処かに行ってしまうということを48作(だったか)を続けており、それなりに見れるのであって、それと同じことだと思う(山田洋次をどうしても好きになれないが)。

 もっとも、70年代に入ると、任侠映画の世界がマンネリ化して飽きられてしまう。そして、実際の事件に基づいたヤクザ映画、つまり、実録ものが流行することになる。任侠映画では、何があっても、恩義は返すものであり、そのためには命を捨てても構わないというファンタジーが前提とされていたけれど、そのアンチテーゼとして、実録ものは、信じたものは裏切られ、恩義は仇で返される世界観を基調とする。

 とはいえ、実録ものといっても、実際の事件をある程度誠実に取材しているものから、かなりデタラメというか、やりたい放題のものまであって(今ふと思い出したのは『神戸国際ギャング』という映画で、これは、最後には、何の映画だったのかが分からなくなる)、ヴァリエーションとイマジネーションに富んでおり、この点においても、任侠ものとは大きくことなる。

 80年代のヤクザ映画では、明確な潮流が見えにくくなるが、しかし、そうは言っても、日本人はヤクザ映画が大好きなので、『極道の妻たち』を代表として、その流れは、淀みこそしても、廃れることがない。なお、70年代から80年代のやくざ映画の流れについては、実録ものの『北陸代理戦争』と『極道の妻たち』の脚本を書いた高田宏治が体現しており、その点については、『映画の奈落』に詳しい。そして、その脚本の『鬼龍院花子の生涯』は最高。

 思いのほか長くなってしまったが、最後に、北野武の作品に触れないわけにはいかない。北野武のヤクザ映画は、日本のヤクザ映画の潮流の正統な(恐らく、最後の)嫡出子であり、任侠映画の綺麗事のファンタジーと実録もののリアリズムの両方を引き継いでいる。

 登場人物たちのエゲツない、あっさりとした殺され方は、まさに実録の世界である。北野武の映画は、そこに基盤を置きつつ、任侠映画高倉健的な人物を配置し、その者だけが筋を通そうとして自滅するまでの過程を描いている。任侠映画と実録シリーズの両方を引き受け、様々な映画的技法を用いつつ、ヤクザ映画で何処までいけるのかを試し続けたのが北野武のヤクザ映画であった。

 …正月早々、俺は何を書いているのだろう。