逢うも逢わぬも

    眠気のなかで

2022.6.18 南印度カレー問題

 住んでいるところから少し歩いた場所に南インドカレーで有名なお店があったので、では、行ってみようか、と考える。先週の終わりから湿度ががくんと上がり、何もしていないのに、じわっと汗ばむ。少し歩くだけで、汗がにじむ。

 南インドカレーの難しさというと、口幅ったいことになるのだけれど、インドカレーと言われて、普通に思い出すような、あのカレー、つまり、バターチキンカレーやマトンカレーにナンといったところから少し外れたところで、南インドカレーが勝負しているところがたぶん難しい。

 正しい喩えなのかどうか分からないが、安土桃山の豪華絢爛コテコテといったものを想定していったら、侘び寂びだったといえば、私には良いように思われるが、いずれにせよ、南インドカレーは侘び寂びなのだろうと思う。もっといえば、あれは、カレーの文脈におくと、そうめんや蕎麦のようなものであって、さらっと食べて、さらっと出てくるのが良いのだと思う。

 だから、ちょうど湿気の多いこの季節からが本当のところで、世界は熱気に満ちていて、体内の熱を増やすことが憚れるようなところで、南インドカレーのあっさりめで、大人しめのところが効くのではないかと考えている。

 とはいえ、いろいろと分かったかのように書いているが、私だって、南インドカレーについては、通りすがりの素人であって、初めて食べた時には、「ん?」と物足りない気分になったことは確かであって、だから、どの角度からどう捉えれば、南インドカレーなのかということをしばらく考えて、暫定的にそう思っているだけであって、結局、私においても、南インドカレー問題は解決済みというわけではない。だから、「いやいや、あんたは誤解している」と言われれば、申し訳ないと謝る準備はできている。いや、申し訳ないとあらかじめ謝っておく。

 昨日も汗をかきながら、南インドカレーのお店にいき、黙々とそういうもんだな、と2種盛りの南インドカレーを食べていたけれど、隣にいたお客さんが「ん?」という顔をして、「うーん」と考え込み、そうして、アイスチャイを飲んで、店主に「チャイが美味しいな」と言ったときには、恐らく、その人もまた、南インドカレーをどう捉えてよいか分からなかったのだろうと思ったし、その言葉に苦笑した店主もまた、実のところ、南インドカレーとは、なかなか取っつきにくい侘び寂びの世界にあるものであって、だから、最初のほうは分からなくても仕方がないと考えているのではないかと、そう推測したが、もちろん、真実はいつも風に吹かれている。