逢うも逢わぬも

    眠気のなかで

2022.02.12 Texture rather than Structure

自転車泥棒 (文春文庫) 作者:呉 明益 文藝春秋 Amazon 今の時代にあって、小説を書きはじめるというのは、難儀なことだ。どうしたところで、それまでの小説と比べられるのは避けられないし、また、比べられることを想定して、何かしらを書こうとすると、断食…

2022.02.12 鳥と巨木

バス停を降りたのは、午前8時の頃だった。白装束のおばあさんだけが降りたけれど、私がトイレに行っている間にどこかに行ってしまった。白装束を身に纏っていたことからすれば、真言宗の巡礼に訪れた人なのだろう。それにしても、こうも簡単に消えてしまう…

2022.02.19 驚異

www.youtube.com ライブハウスは、梅田の駅の向こう側にあって、歩いていこうと思えば、歩いていける距離ではあった。ただ、朝から断続的に降っていた2月の冷たい雨は、15時過ぎにはもう、水たまりを作り出すほどには充分なミリバールになっていた。だから…

2022.02.19 ほんの少し、わずか手前

大阪天満宮の東側に食べ物屋が集まっている区画があって、どういうわけなのか、斜め向かいに麻婆豆腐の有名店が向かい合っている通りがある。 両方とも食べてみたが、甲乙つけがたい。一方は、辛味の中にも甘みや酸味を感じさせる滋味溢れる優しさがある。音…

2021.12.30/2022.1.29 親子丼とコーヒーと鯖寿司

www.youtube.com 京都にやってきたのは、年末年始休みにかけて以来のことだった。 12月30日には、家族で下鴨神社から鴨川沿いを歩いて、一乗寺駅に向かうところで曲がり、まるさか洋食堂で昼食をとった。目当てにしていたわけではなく、通りかかり、良さそう…

2022.2.3 旅の終わり、小説の続き

もう10年以上、いや、それ以上ずっと前になるものだから、ゼーバルト・コレクションを読みはじめた頃のことは、正確には憶えていない。『移民たち』からだったのか、それとも『空襲と文学』からだったのかも憶えていない。ただ、私は、小説に読み慣れていた…

2022.2.1 親戚系

私の中だけの話にはなるが、「親戚系」とカテゴライズしている飲食店がある。親戚の家のような店のことを指す。外からみれば、寂れているものの、店の前には、メニューを記した立て看板が掲げられ、電灯もついている。ただ、やけに繁茂したカネノナルキの植…

2022.1.30 ソファにおくのを待つ

ブランクスペース(1) (ヒーローズコミックス ふらっと) 作者:熊倉献 ヒーローズ Amazon 娘がだんだんと大きくなってくると、自分が本を選ぶ時に、どこかしらで娘が読むのではないかと意識していることがある。 もちろん、とても良いと思って勧めたことも…

2020.9.13/2022.1月上旬 ホホホ座の夏

残暑の京都の暑さは、私の身体には、それほど辛くなかったけれど、娘には、かなり厳しかったようだった。だから、夏の旅の最終日は、一乗寺から歩いて、圓光寺と詩仙院を訪れた後には、娘は、「もう、ぜったい歩かない」と言った。仕方がないので、恵文社書…

2021.12月下旬及び2022.1月上旬 本のこと

アタリもあれば、ハズレもありというのが本の全てであるが、12月下旬から1月上旬にかけて読んだものの中で、人にお薦めしたいのは、このあたり。 ロスト・ラッド・ロンドン 1 (ビームコミックス) 作者:シマ・シンヤ KADOKAWA Amazon ロンドンを舞台にして、…

2022.1.10 我はなぜコーヒーに信仰のようなものを抱くに至ったか

目が覚めると、太鼓の音が聞こえた。何なのだ、と思って、ベランダに出ると、大阪天満宮に人が多い。三賀日の大阪天満宮の人の出は、不動産屋から聞いていたものの、想像以上だった。警備員が出て、カラーコーンで導線が作られ、行列ができていた。 その朝の…

2022.1.8 歩く

大阪市立美術館のメトロポリタン美術館展では、カラヴァッジョの作品を見たいと思った。上野の国立西洋美術館で大規模なカラヴァッジョ展がやっていた時は、まったく興味がなかったのだけれど、3年前、北海道立近代美術館でカラヴァッジョの作品、もっとい…

2022.1月上旬 坂のない土地

大阪で生活をはじめる時、ぼんやりと考えていたのは、スティングの「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」の曲のことだった。自分もそこはかとない違和感のようなものを感じ、あの曲があたまをよぎることがあるのではなかろうかと想像していた。 けれど…

2021.12.6 三省堂から遠く離れる

大阪に旅立つ前、もう少し時間的な余裕があると思っていたのだが、実際には、予定がどんどんと埋まっていき、結局、時間のなさに閉口することになった。それでも、ほんの少しだけの時間が空いた。 We can steal time just for one day. こういうと、この年齢…

2021.12.24 歓迎とサボテン

翌日は雨だという予報だった。空を見上げると、まだ晴れていて、しかし、雨の予兆は、確かに感じられる。そういえば、大阪にやってきてから、一度も雨に降られていないと気づく。少しは歓迎されているのかもしれないと思う。根拠はない。グーグルマップを開…

2021.12月中旬 『眠りの航路』から伸びる根

大阪に出発した頃に読みはじめたのは『眠りの航路』という台湾の作家の小説だった。一人称と三人称が交互に出てくる章立てになっていて、物語がはじまるとすぐに、一人称の語り手が不眠になってしまう。新しいベッドがからだに合わなかっただけといえば、そ…

2021.12.14 呼吸

その日の最後の曲はクリスマスソングだった。 大阪の千日前という街は、キタなのかミナミなのか、私には分からない。ただ、少なくても、私が住んでいるキタとは少し違った雰囲気が漂っていることは感じとれる。キタを彩っているイリュミネーションやそつなく…

2021.12.10 肉すいとうたたね

大阪に到着した日には、大阪らしいものを食べたいと考えたけれど、たこ焼きで夕食というわけにもいかないし、コミュニケーションも込みであるという、お好み焼きは億劫だった。それ以外に何が大阪らしいものなのかが分からない。 話はずれるが、モロッコのマ…

2021.12.11 予定のない午後

大阪には、12月13日までに行けばよいとされていた。 その間だったら、いつでもいいと言われると、逆に、いつにして良いのか分からなくなったが、12月10日に決めたのは、12月11日の羊文学のライブのチケットを買ってしまっていたからだ。横浜の公演もあったの…

2021.12.5. 泉岳寺まで

私が大阪にいくと聞いて、なにをどう思ったのか、父が泉岳寺にいくと言い出した。 私と妻と娘を連れて泉岳寺に行き、ホテルで夕食をとろうという。どう考えてよいのか分からなかったが、父はもう高齢で、私の家族を誘うということは珍しいし、私としても、父…

2021.11月下旬 とどまる時間に漂うとき

感染症の蔓延のために閉ざされていた街が少しずつ開きはじめ、街なかに人が戻りつつあった。大阪に行く前に一度は行かないとならないと思っていた店があって、だから、新しい生活の隙をすり抜けるようにして、11月下旬の平日に訪れた。 その店はいつも夕暮れ…

2021.11.13 キタからミナミ、そして、キタ

そうして、私は京都から大阪に向かった。 京阪三条駅から北浜駅まで行くことができるというのは、関東出身の者からすると、ちょっと信じられないようなところがある。2つの大きな都市が地下鉄と地下鉄で繋がっているというのが感覚として掴めない。東京メト…

2021.11.12 京都と安心な僕ら

私にとって、京都の最初は烏丸御池にある大垣書店だと思う。たまたま泊まったビジネスホテルで、夜、夕食を食べ終えてしまうとやることがなくなり、烏丸御池まで歩いていき、本を眺めていたら、小野不由美の『営繕かるたや怪異譚 その弐』が売っていた。旅先…

2020.8.30 地下室の美術館

(2回目の大阪のことを書きながら、ヤン・ヴォー展のことを思い出した。とても素晴らしい展覧会だったのに、ほとんど誰も語っていないことを残念に思っていて、だから、あれは良かったんだよ、と誰かに伝えたいと再び感じた。1年以上遡ることになるけれど…

2021.11月初旬. 大阪と少しの安心

大阪に行ったことがあるのは2回だけだ。 1回目はかれこれ20年以上も前のことになる。大阪に行ったときに聴いていたのがコーネリアスの『ファンタスマ』だということを今思い出したが、あれを新盤として聴いていたのだから、あれは1997年のはず。つまり、24…

2021.10.29. 渋谷とやってきた未来

若い人に誘われ渋谷で飲むことになったのは、10月29日のこと。そう言ってみれば、もう1ヶ月も経とうとしている。時間はずいぶんと駆け足で通り過ぎていく。 東急東横線の渋谷駅が地下に潜ってしまってからというもの、地上まで出るのが億劫なり、渋谷で降り…